いのりのもり祈りの杜仮称

和讃・法楽寺掲載の伝統的な和讃の本文

延命地蔵和讃えんめいじぞうわさん

釈迦の付嘱を受けて苦しむ人々を導く地蔵尊をたたえ、後半では真言や曼荼羅に関わる密教の教えをうたう和讃です。賽の河原の物語をうたう「西院河原地蔵和讃」や「延命地蔵経」とは別の本文です。法楽寺掲載の字句と読みを基本に、旧字体と歴史的仮名遣いを整理し、掲載元にふりがなのない「地蔵尊」などには、この杜が読みを補いました。「大非」は「大悲」に整理しました。地獄・餓鬼の苦しみを描く箇所もあります。原文の信仰上の表現を紹介するもので、読まない人への災いや、寿命が延びる効果を保証する説明ではありません。

地蔵尊への礼拝と六趣(じぞうそんへのらいはいとろくしゅ)

帰命頂礼(きみょうちょうらい)地蔵尊(じぞうそん) 釈迦(しゃか)の付属(ふぞく)を憶念(おくねん)し

悪趣(あくしゅ)に出現(しゅつげん)し給(たま)いて 衆生(しゅじょう)の苦患(くげん)を導(みちび)けり

等覚(とうがく)無垢(むく)の大士(だいし)たち その数(かず)あまたましませど

大慈大悲(だいじだいひ)の深(ふか)きこと 地蔵菩薩(じぞうぼさつ)にしくはなし

無始(むし)より我等(われら)流転(るてん)して いつか生死(しょうじ)を離(はな)るべき

六趣輪廻(ろくしゅりんね)のありさまは 車(くるま)のめぐるがごとくなり

一念(いちねん)まよいし始(はじ)めより 無明(むみょう)の暗(くら)き闇(やみ)にいり

長夜(ちょうや)の眠(ねむ)り深(ふか)ければ 夢(ゆめ)に驚(おどろ)くこともなし

退没五衰(たいもつごすい)の悲(かな)しみも 生老病死(しょうろうびょうし)の苦(くる)しみも

皆(みな)これ火宅(かたく)のほのおにて 胸(むね)を焦(こ)がせる煙(けむ)りなり

妻子珍宝及王位(さいしちんぼうぎゅうおうい) 眷属牛馬(けんぞくぎゅうば)おおけれど

魂(たましい)中有(ちゅうう)にいりぬれば 一(ひと)つも従(したが)う者(もの)ぞなき

この時(とき)誰(たれ)をか頼(たの)むべき その苦(く)を誰(たれ)かは助(たす)くべき

ただ願(ねが)わくば地蔵尊(じぞうそん) 迷(まよ)いを導(みちび)き給(たま)うべし

苦しみからの導きを願う(くるしみからのみちびきをねがう)

修羅(しゅら)きょうまん闘諍(とうじょう)も 畜生(ちくしょう)愚知(ぐち)の残害(ざんがい)も

因果(いんが)の道理(どうり)定(さだ)まりて 脱(のが)るるたよりなかりけり

哀(あわ)れつたなき我等(われら)かな 知(し)らずばさてもやみぬべき

すでにこの理(り)をわきまえて 後世(ごせ)を恐(おそ)れぬはかなさよ

飢(う)えに臨(のぞ)みて子(こ)を喰(く)らう 餓鬼(がき)の思(おも)いぞ哀(あわ)れなる

脳(のう)を砕(くだ)きて血(ち)を吸(す)えど 心(こころ)に飽(あ)く事(こと)さらになし

想像(おもいや)るべしそのときの 苦患(くげん)の程(ほど)はいかばかり

いわんや地獄(じごく)の有様(ありさま)は 心(こころ)も言葉(ことば)も及(およ)ばれず

無間焦熱大叫喚(むけんしょうねつだいきょうかん) 名(な)を聞(き)くだにも恐(おそ)れあり

まさしく魂(たましい)ひとりゆき ほのおに入(い)らん悲(かな)しさよ

娑婆(しゃば)にて慈悲(じひ)の名号(みょうごう)を 一度(ひとたび)唱(とな)うる功力(くりき)にて

業(ごう)にひかるる魂魄(こんぱく)を 導(みちび)きたまえ地蔵尊(じぞうそん)

真言と曼荼羅の教え(しんごんとまんだらのおしえ)

知(し)るのみならずかの尊(そん)の 三種(さんじゅ)の賀字(がじ)の真言(しんごん)は

十悪業(じゅうあくごう)のいんねんを 不生(ふしょう)なりとぞ示(しめ)しける

因業(いんごう)すでにむなしくば 苦報(くほう)いずくにありぬべき

因果(いんが)と共(とも)に不生(ふしょう)なる 阿字宮殿(あじくうでん)の仏(ほとけ)なり

南方大士地蔵尊(なんぽうだいしじぞうそん) 宝生如来(ほうしょうにょらい)幢菩薩(どうぼさつ)

浄菩提心(じょうぼだいしん)如意宝珠(にょいほうじゅ) 左(ひだり)の御手(みて)の宝珠(ほうじゅ)には

置在高幢雨種々宝(ちざいこうどううしゅじゅほう) 世出世間(せしゅっせけん)の願(がん)をみつ

我等(われら)貧里(ひんり)に呻吟(さまよ)いて 願(ねが)わざるこそ悲(かな)しけれ

さて又(また)三部(さんぶ)の曼陀(まんだ)には 観音(かんのん)持宝(じほう)金剛幢(こんごうどう)

一体(いったい)大悲(だいひ)の門(もん)にいで 衆生(しゅじょう)を摂化(せっけ)し給(たま)えり

輪円具足(りんねんぐそく)の法性塔(ほっしょうとう) 六大無碍(ろくだいむげ)の錫杖(しゃくじょう)を

執持(しゅうじ)の御手(みて)に打(う)ち振(ふ)りて 深(ふか)き眠(ねむ)りをおどろかす

一門(いちもん)すなわち普門(ふもん)にて 地蔵(じぞう)すなわち遍照尊(へんじょうそん)

因果一如(いんがいちにょ)の法門(ほうもん)は 不二摩訶衍(ふにまかえん)の仏(ほとけ)なり

伝統的な古典本文のみを独自に組版。現代の解説・訳文・写真・音源・版面デザインは転載していません。

ゆかりの神仏

出典・参考資料